ガラス職人の父の話

glass_syokunin
私の小学校時代のあだ名は「十代」だった。なぜかというと、私の父がガラス屋さんを営んでいたからだ。言わずもがな、光GENJIの「ガラスの十代」の「十代」である。おかげでクラスの男子からは耳元で「壊れそうなものばかり集めてしまうよ~」と歌われるし、先生が授業中に「壊れやすい…」なんてフレーズを口にしようものなら、みんなが私を見てくすくす笑い出すし、と光GENJI黄金時代はあまりいいものではなかった。普通の会社に勤めている、普通のサラリーマンがお父さんだったらどんなによかったかといつも思っていた。

思春期に入ると光GENJIが解散し、ガラスの十代ネタで同級生からからかわれることはなくなったものの、ガラス屋はそれほど儲からないし、あまり自慢の父とは思えなかった。

やがて私は高校時代の同級生と結婚し、地元に家を建てることになった。ガラスや網戸はもちろん父にお願いすることにした。今まで父がガラス職人ということで散々嫌な思いをしてきたのだから、これくらいの恩恵は当然だろう、と私は思っていた。

新居が完成し、私は自宅に息子の幼稚園のママ友を家に招いた。みんな地元以外出身の人で、私の父がガラス職人であるということは誰も知らない。そんな中で、一人のママ友が私にどこのガラス屋に頼んだのかと尋ねてきた。私は父の職業を知られたくなかったので、他人行儀に「○○ガラスだよ」と答えた。するとその友人が、「うちもそのガラス屋さんだったよ。仕事が丁寧で親切だよね」と言った。すると別の友人も「そのガラス屋さん、評判いいらしいよ」と続けた。私は何だかこそばゆくなり、居心地が悪くなったので、思い切って「それ、うちの父なんだ」と言ってみた。するとそこにいた全員が「えーっ!すごいねー」と感心してくれた。私は予想外の反応に戸惑いながらも、今まで生きてきて初めてガラス屋の娘、いや父の娘で本当によかったと思ったのだった。